財団法人 総合科学研究機構 機関誌「CROSS」寄稿  12.17.2005

つくばスタイル 新・田園ライフの提案

「つくばスタイル」って何
 2年前、都内で経営セミナーがあり財界のカリスマ的存在、京セラのI氏の講演を聴く機会がありました。町工場から立ち上げてきたサクセスストーリーの中でひときわ感慨深かったのは「難しいノウハウではなく、小さい頃に親からいわれたことを信じて判断してきた」ということでした。
 翻ってつくばのこの40年を見たときその親とは何だったろうか。官製の街としてスタートしたこの街は制度が親ということだろうか。平行してあったはずの「人」の親が示唆してきた街創りの軌跡はどこに・・・。
 さて、その時期都市機構からのお誘いでTX沿線のまちづくりやそのブランド化を検討する席に同席しました。制度の元での発展に陰りが見え、人の智恵を入れる方策が検討課題となっていました。サイエンスや筑波山に代表される自然の豊かさも大きなキーワードでしたが、人々の智や営みの姿をより多様に表現しうる街がイメージされました。制度から人が創る街へとシフトした点、魂が入る大きな足がかりとなったのでは。その意味で「つくばスタイルは」20万市民共有のブランド目標であり、その成果に権利と責任を自覚することと理解しました。

もう一つのつくばスタイル
   一方、開通後の現実としてのつくばを見てみると、筑波山は活気を見ています。つ  くば駅から発する筑波山行きのバスには乗車待ちの長い行列ができ、いまさらのよう  にそこのもつ有史以来の存在感には頭が下がります。また、これまでお堅いイメージ  に終始した研究機関の公開には多くの見学者が足を運んでいると聞きます。しかし、  その間にあって健闘しているものに周辺集落地区を舞台環境とした「食や農」をめぐ  る動きがあり注目しています。国民総グルメといわれて久しいがその舞台が素材生産  の現場に近いところまできたことを喜ぶ一人です。先般開催されたTX開業を記念し  たウェルカムイベント「つくばスタイルフェスタ」でもこれまでの食のサービスとは  違ったこだわりのところが魅力となりました。地元の先達筑波ハムさんをはじめ、地  場の野菜にこだわった風土庵さんの「大地のスープ」、ヤーコンの栽培から食にいた  る一貫した商品力に情熱を注ぐヤーコンの会さん、いずれも生産との関係を重視した  ところが元気でした。また、市中においても同様で、最近では意図的にそうした立地  環境が好まれる傾向があります。本来外食を含む最寄り産業は人口集積地指向で今日に至りますが、車社会とはいえ隠れ家的な立地で営業する形態が成立しやすくなった  のは大きな時代の変化といえましょう。私どもの施設などもその一角にあります。

農村のストックをまち育てに
 都内から下りのTXに乗り込み利根川に差し掛かったところから風景が一変すると感じるのは私一人ではないと思います。利根川の河川緑地はまさに心の様相を切り替えるに十分な風景の広がりをもっています。トンネルを抜けると・・・のフレーズを引用すればまさに「橋を渡れば里の国だった」というにふさわしい、人と自然の織りなした優しさがあふれる一帯を車窓から見せてくれます。今日「癒し」は大きなキーワードとなりました。心を包み込む風景と素朴な中にも誇りをもったもてなしは何よりの資源といえます。
 先頃まで日本の企業は環境対策に消極的だといわれていたかと思います。生産的でないという論理ではなかったでしょうか。しかし、今では環境対策こそ付加価値の先頭にあるまで戦略的な転換が図られました。翻って農村のストックを付加価値の先端に登用する主体はどこに・・・。
 つくばスタイルの理念にふれた「市民」こそその主体になりうるのではないでしょうか。
非農家の皆さんが里山の下草の管理をする取り組みは各地で見られるようになりました。また、水田では家族連れによる大勢の田植えが農村ににぎわいを添えています。先日はそうした農村の資源に光をあてた「グリーンツーリズム」の全国研修会も開かれ、県内各地の農村にコースが組まれました。まだ少数ですが古民家の空き家をリフォームしスローな暮らしのスタイルを謳歌する例もでてきました。
 私事ですが、先般、小生が暮らす集落の空き家となった古民家を、持ち主の事情を汲み「大掃除」を呼びかけたところ、大学生を含む大勢の若い方の参加がありました。ほこりまみれの中にもそれぞれの笑みが印象的でした。朽ちかけた古い民具に一喜する若者や、手を止めることも忘れて作業する姿に接し、ノスタルジーもここまで来たかと感慨深いものがありました。

大掃除を済ませたときの公開イベント

 今後農村をめぐるこうした動きはTXを媒介に広域的な参加に繋がっていくものと思われます。
そこでは冠のついた一介のイベントとは違った普遍性をもった地道な主体が望まれており、担いうる市民セクターを育てる、育てていくものとなりました。

滞在型市民農園「クラインガルテン」の提案
 橋を越えた里の国に向けられたもう一つの期待は、「生活の一部に農のある暮らし」を、ではないでしょうか。本場のドイツは病院をつくるよりクラインガルテンをというぐらい予防医学の先頭を走っています。つくば市内にも市民農園の例がいくつか見られますが、近隣ニーズ向けに留まっています。日本型クラインガルテンは滞在機能を重視した施設水準が示されており、TXの開通により首都圏とのアクセスが格段に向上した今、つくば下りのリピーターづくりに格好ではないでしょうか。都市部の住民にとって緑との関わりや、食物への安全、安心はいまや国民的関心事。自ら見とどけ、育んだ作物達は宝石にも勝るものです。土地の風土にふれ、愛着がわいたころ、リピートを卒業し住民票をつくばにと考えるのではないだろうか。市内の新駅周辺は歩いて数分という距離にも良質の農村景観が広がっています。近くは笠間に例が見られ、里の景観が色濃く残る山裾に各区画が100坪と、一般市民農園よりも大きい50程の区画が整備されています。そこにコテージが併設され、滞在しながらの作物づくりが可能となっています。首都圏からの申し込みも多く、いまも順番待ちの人気を博しています。加えて、そこで育まれるコミュニティにも注目が集まっています。                                   

笠間クラインガルテン

便利ツールとしての「モービルホーム」
 私は滞在型農園でのコテージ(ラウベ)も含め、農村部での様々なニーズの受け皿として、もう一つの提案にモービルホームがあります。このモービルホーム、我が国にもトレーラーハウスという和製カタカナ製品として4半世紀前に上陸しました。住空間を工場でシャーシの上に構築し、現地まで牽引して設置する。という現場作業を限りなく少なくした工程改革製品です。アメリカ発祥のこのホームはキャンプ用トレーラーの発展形態の一つで、70年の歴史をもっています。本場では連結により50坪クラスのものまであり、一般住宅の一つの形態にまで普及しました。 ちょっと古いデータですが、カリフォルニア州だけをとっても州人口の2.3%、80万人が生活の場としております。モービルホームパークという受け皿施設が各地に用意され、月極駐車場感覚でサイトの貸借契約を交わし、牽引してきて係留し、ライフラインをワンタッチで接続。その日から生活を開始できるという便利ツールです。
 しかし、上陸から4半世紀を経た日本ですが、未だに法体系上あいまいであったり、当初粗悪品が流通したことなどから普及は進まず、むしろ一部の地域では規制の対象として扱われてしまいました。
 ところが、前例とは違った視点から再評価の機運がでてきました。地震に代表される大規模災害時の救援住宅としてです。本場のアメリカでは連邦政府が数千台ストックしてあり、先般のハリケーン被害などでも即座の対応が図られた様子が紹介されました。日本で通例となっている仮設住宅の立ち上げとは比較にならない機動性をもっており、政府の判断が注目されます。
 そのような再評価の機運を期待し、また、先の市民農園提案とセットにし、私どもでつくばスタイルフェスタ2005イベントに「クラインガルテンつくば」と題しコーナー出展を試みました。市民農園といえども大地の恵みを享受する場。土地にもやさしくありたいもので、その点モービルホームは土地の改変を抑え、「係留」しての活用が可能です。フェスタでは多くの方はそうしたものの存在そのものに驚きとと       
まどいを露にしてましたが、概念への理解力の高い方は暮らしの空間への認識を変えたとの感想を得ました。移動できるということはニーズのあるところに適宜届けることができるという言い方に置き換えられます。使用が終了したとき解体の道しかとれない「建物」と比べ、リユースしやすいという便利ツールとして今後提案を高めていきたいと考えています。

モービルホーム

 TXの走路を背景にした田園地帯に日曜農家の笑顔と歓声が広がることを期待しています。